☆建材部会のシックハウス対策「米子プロジェクト」の取り組みは、建材業界雑誌「住宅ジャーナル」にその経緯が掲載されてきました。ここでは、そのダイジェストを紹介いたします。

時系列で、日付の古い順から掲載しています。


建材の安全性能確立へ向けた取り組み
(住宅ジャーナル2004年1月号「建材商社NOWA 新春特別版」より)


「コスト低減ロジ論」から
「安全管理ロジ論」の確立へ挑戦
住環境医学研究会建材流通部門&地域建材商社の理念共有連合体


 建材の物流においてはロジスティクスの導入により、@欠品の極小化による販売ロスの排除=売上の増大、A適正在庫を維持できることによる在庫コスト、廃棄処分コストの極小化、B物流コストの大幅な低減といった効果を上げる取り組みを行う商社も存在する。しかし、旧来の物流改革はコスト圧縮やムダの排除という側面に限定され、製品自体の安全性を重視したロジスティクス論は確立されていないのが現状ではないだろうか。商流におけるムダの排除という部分が商物流でコストを圧縮し利幅を確保するといった手法は建材の低価格化と量産化を促した。しかしなぜだか安価に叩き売られた建材で建てられる住宅の価格は下がらないし、メーカーも思うように儲からなくなってしまった。排除したはずのムダの中に、実は落とし穴があったのではないか----これはあくまで推論ではある。
 
 しかし大手乳業メーカーによる品質劣化事故や偽装ラベル事件など、ロジスティクスが進み低価格と効率的物流によって我々の胃袋に低価格で採り入れられる食料品の世界でも安全管理について検討が始まるのは常に事故が起きてからである。住宅建材の世界でもシックハウス対策法の制定や、化学物質化敏症の患者の増加、原因の分からない病気などが住まいに原因があると特定されるような時代が本格的に到来している。これから問われる商物流ロジスティクスのポイントは、今まで通常に管理していた建材の「安全性は誰が確保し、誰が責任を取るのか」という点であることはほぼ間違いないだろう。くどいようだが偽装ラベル事件、食中毒、リコール隠しなどの問題が住宅建材の世界でも起こりうる、新年早々ではあるがそんな予想が十分に成り立つのである。事実、最近になって「健康建材を選択肢施工したのに病気が悪化した」とか「シックハウス対策の建材を施工したのに、実際には不良品でありメーカーは対応が悪かった」といった報告が頻繁に寄せられているのだ。商物流において今までは関係なかったことが身近なこととして起こる可能性は秘めているのだ。また事実として先月号で紹介した建材商社ではF☆☆☆☆倉庫を作り倉庫管理では最低限の対策をしており、他人事ではないという姿勢を持つ商社も現れはじめているのだ。これは小さな動きながらも、その先に起こりうることに対し先手を打つとう意味で非常に象徴的な事象である。

 そうした動きと合わせて、実際に建材物流における更なるロジスティクスの再構築と同時に、建材の管理手法についての研究がいよいよ民間主導で始まっている。昨年6月30日に設立された住環境医学研究会建材流通部会では、「安全建材選びのためのシステム構築事業」を1月より本格的に開始する。ロジスティクス論で言うと、建材メーカー・大手商社・問屋といった一般商物流に対しどの分野に協力を仰ぐかといった判断も重要であるが、まずはその前に実践的に機動的に動ける地域建材商社とその取引工務店、さらには自治体の協力による“安全建材”を使用したパイロットハウスを打ち建てようという構想で動き出すことになった。

 米子のミヨシ産業では安全建材仕様住宅のパイロットハウス建設に名乗りを上げている。同社は県の住宅供給公社などとこれまでもCPM住宅プロジェクトを実施してきており、今回の研究会のシックハウス対策工程納材のマスタープラン作りにも商流の立場から積極的に関わっている。研究会ではこうした地域商流の声を受けて、安全建材を定義する「シックハウス症候群対策建材・資材データベース」(「NPOシックハウスを考える会」が定めた基準による建材試験データを持つ建材)の有効活用手段ともなると判断、パイロットハウスに使用する建材の選定を共に進めていくこととなった。地域バージョンのパイロットハウスが、全国各地域から名乗りを上げて建てられていくことを研究会では期待しており、それは自治体の新しい住宅政策の一環として展開されるような政策提言なども可能となると見ている。

 ただ現状の難しさとして、既存の商流(特に地域建材商社が建材メーカーの取引上の問題、品揃えの問題)の関係上、研究会が提案するシックハウス症候群対策建材・資材データベースを使用できないという事態も想定される。取引のない商社、特定メーカーを得意とするという場合などが商流にはある。そこで研究会では、建材メーカーにもプロジェクトチーム参加を呼びかけていく方針だ。つまり建材メーカー、地域建材商社、住環境医学研究会、そして該当する地方自治体、各種団体などと検討チームを作り、そこで使用する建材・設備などについて一定の試験・調査を行った上でパイロットハウスを建設しようという動きである。
住宅を建てることは最終的な出口であるが、研究会が主張する「安全ロジスティクス論」の基本は、すべてものごとの決定は住宅の完成形から遡って決定するということである。

 そしてこの考え方は、ミヨシ産業がこれまで行ってきたCPM住宅の考え方とベクトルを一にする。「最終的な決定事項から遡って、工程を決めていく」この考え方に建材選定を結びつければ「最終的なシックハウス対策住宅」という姿がまずあり、それに対して建材をひとつひとつ落としこんでいく、という作業である。対策住宅という完成形を目指し、メーカーから出荷、配送、倉庫の保管、管理、納材、現場監理といった一連の商物流をひとつずつ検証して行くことが必要であるという考えだ。

 ミヨシ産業川上卓也部長は言う。「現場に到着するモノは一種類だから早い段階で決定が必要。決定権は施主にあるが実際はすべて施主が決定するのは不可能。だから工務店がそれを決めるのだが、流通はその仲介役となり一緒に決めていくという姿勢でこれまでCPM住宅を手掛けてきた。使用する建材の確定を経て、工程表ができる。大工のヒアリングから始まり、人工数の確認が決定すると納材のタイミングができる。ここを流通では工程・物流管理としてコンピュータ化し言語の統一によって管理体制を確立している。ここに、研究会のシックハウス対策建材スキームを乗せてみたい」。

 対策建材の調査スキームの基本は、まず使用する建材の測定とデータ把握だ。研究会の副会長・白瀬哲夫氏は言う。「工場生産は素性が分かるものを使用するのが一般的だ。それは流通、現場も同様で、対策住宅を謳うからには素性の分からない建材を使うことは避けなければならない。どんなに良いと言われるものを使用しても完成品(住宅)となった段階で問題が起きたのでは意味がない。これを自動車の衝突安全性に置き換えて説明するとよくわかる。この性能は車という商品を考えた時、乗員の生命を守る上で不可欠な要素だ。そしてこれを達成する為に、構造も含めた関連部品全てが要求された性能仕様を満足するように設計され、相当な時間と経費をかけて試験されている。同じ事を住宅に置換すればそれは構造安全性であり健康に対する安全性であると考えなくてはならない。だから素性の分からない建材を使うことは出来ないし、同時に使用する建材の素性を明らかにしていくことが必要である」。

 建材メーカー、建材流通の一般的商物流と自動車業界の品質管理手法を比較すると、クルマの場合はクレームがあった場合ディーラールート等を通じてピックアップし、次期モデルへのその情報が吸収されていく。素性を把握するための品質管理部門の部品メーカーへの立ち入り検査や、ppm管理(不良率が100万分の一)と言われる、厳しい品質管理も珍しい事ではない。翻って建材商流においては、こうした検査体制が確立されているかは極めて疑問のあるところだ。特に商品の健康安全性という概念が商流のシステムの中に組み込まれてこなかったため、ジャストインタイムの効率的配送体制などは意識が高いものの、品質管理部門、商品開発部門、営業部門との情報連携は極めて希薄であると言わざるを得ない。同一メーカーの中の縦割り構造がどれだけあるか、再検証してみる必要があろう。むしろ頻繁にクレームに接している工務店の方が、安全性に対する配慮は慎重であるという状況がある。商物流の段階で建材の素性を把握し、安全管理確体制を確立しなければならないのだ。

 研究会、そして参加する地域建材商社する今回のプロジェクトには、近い将来の地域住宅供給モデルとしての政策提言をも包含している。シックハウス対策から始まる健康・安全な商物流を経た建材を使用した家づくり、そしてそれを通じた地域経済の活性化を図るという目的が含まれている。もちろん、消費者の健康な暮らし、安心できる建材選定などは当然の責務と考えるが、建材供給サイドがコミットできるのは実はここまでだ。消費者の健康、主観的な部分はさらに進んだ医学的アプローチが必要になってくる。住環境医学研究会の医師部門でも現在研究と対策、政策提言を準備しており研究が始まっている。建築(建材流通)、医学、化学が融合した住宅建築モデルがいよいよ今年は幕を開ける。まずは安全建材商物流の把握とパイロットハウスの建設によって足がかりを掴み、国民的運動につなげていくというプロジェクトが始まったのである。なお、研究会では広く建材メーカー、地域建材商社のチーム参加を呼びかけている。




☆この間、米子プロジェクトではどのようなことを行うかについての、打ちあわせが頻繁に行われました。
以下に掲載するのは、対策の手段と方法を記したものです。
結果的に、2005年8月の第2回総会では、「建材の流通汚染」まではフォローできなかったという白瀬部会長の報告もあった通り、今後取り組むべき課題は残る結果となりました。
以下の記載を参考にしていただくと、プロジェクトで達成できた成果と、遣り残した課題が分かると思います。

※参考
シックハウス対策住宅・米子プロジェクトについて
普通の建材と、普通の流通・施工でどんなデータが得られるのか?



 鳥取県米子の建材商社・ミヨシ産業がシックハウス対策住宅の建設に名乗りを上げました。建材商社が工務店・施主の代理人的な存在となり、安全建材の選定とプラン作り、現場監理と説明責任という機能を果たすことは、今まで見えなかった商物流の問題点をクリアにすることでもあります。

 この動きには住環境医学研究会の協力を得て、建材の選定や測定業務などのフォローをすることになりました。今回のプランは、第一に「納材するまで」の段階を重視しています。販売店が納材する品目をすべてピックアップする作業も行います。次に、工程表に基づいた「現場」でのチェック管理を行います。現場で張り付いて、ひとつひとつ怪しいものをピックアップする作業を行い、データ取りをします。

 「納材まで」そして「現場」という、それぞれのプロセスを克明に記録することで、納材履歴と工事(作業)履歴を残します。施主から問題を指摘された時には、これらのデータによって建材の特定と商流の特定が明らかになります。測定値の数値変化の記録データは、商流から施工までの流通対策としての標準データとして活用できるものにしたいと思います。さらに、分かりにくかった商流のパターンを収集することで、モノの流れを把握したいと思います。


工程納材計画(予定)

■測定する建材 
フローリング、合板、梱包材
合板は特に養生に使うのかどうか、厳密なチェックが必要となる。

@フローリング
■商流モデル
フローリングのメーカー→保管先@(問屋)→保管先A(販売店)→現場

なお、メーカーから保管先が、現場納材店へ直接行かないケースも多い。問屋や商社の保管場所を経由するケースがそうだが、これは今回のフローと同様に問屋商社さらにメーカーの協力を得てデータ取りをしていく予定。ただし、問屋商社の商流を完全に抑えなくても、数値の推移は最初と最後を抑えることで把握できるため、シックハウス建材の原因特定の確率は高くなると言える。

■フローリング材の工程
・メーカーの出荷検査--(40日間の空き)--現場搬入--(2日間のあき)--現場施工
つまり40日間が建材店倉庫での対応となる。そこで以下の様な試験計画を考えてみた。
1)予め放散試験でレベルを確認した梱包仕様の異なる2種以上のフローリング材を用意する。
■メーカーより入荷した試験対象材の一部をカットして化学物質放散分析を実施(温湿度条件は28℃、50%)
■梱包材そのものの化学物質放散分析も同様に実施

2)搬送時の実態調査
■コンテナを使用する場合
・通常と同じ条件(混載?)でコンテナ内の空気質分析を実施
・積載状態を克明に記録
■コンテナを使用しない(開放型の積載)場合
・積載状態を克明に記録

これで「建材」と「梱包材」の把握が可能になると考えられる。搬送時の実態調査は、建材の取り扱われ方などもチェックすべきだと考える。例えば作業員がどういう取り扱いをしているか、水に濡れていないかなど、品質管理状態も見ておき記録する。
コンテナの空気質は意外と盲点である。ここで高い数値が出れば、コンテナ内の空気質が汚染されていることになるからだ。ゆえに、積載状態の克明の記録は必要だ。

・被試験材と直接接触する可能性のある材料についても同様に化学物質放散分析を行う。
これは混載されている建材を現場で見るか、建材店の管理体制としてどんなものが混載されやすいかを把握するか色々なパターンが想定できる。一番平均化が出来ない部分かもしれない。

3)搬送終了時の実態調査
■在庫を予定している倉庫に搬入する直前の状況を調査する。2)と同様に被試験材のカットサンプルのチャンバーテスト

2回目のカット試験。ここで出荷時点よりも数値が上がれば、搬送に問題があったということにもなる。

■コンテナ内の空気質分析、被試験材と直接接触した材料の化学物質放散分析等々を実施。
 コンテナの測定はここで2回目となる。

4)倉庫内の空気質分析
■被試験材が置かれる予定の近辺空気の分析を実施する。
■これは現場への出荷直前についても同様
この部分は倉庫では入荷・出荷が同時並行して出入りするので、むしろ休み明け・始業時などの測定も有効となる。

5)現場搬送直前の化学物質放散分析
■被試験材、梱包材等について実施
いよいよ現場納材の直前段階。ここでのチェックが、販売店が関与する最終的なデータとなる。

次に現場での材料受け入れ体制のチェックの段階に入る。納材してから施工までにどれくらいの時間が掛かるのか、その間の現場での保管体制は見て置くべきである。

6)施工現場での納材受け入れ体制
■どこに保管されているのかの克明な記録
■施工後のフローリング測定

合板の場合も、上記フローと同様にチェックを行う。

 


「米子プロジェクトを追う」シックハウス対策から始まる「工程管理」
CPM活用し施工対策を盛り込む

(住宅ジャーナル2004年4月号「建材商社NOWBより)


 「対策は必要である。ただ、どんな場面に出くわすのか分からなし、何をどう対策していいのかが分からない」これがシックハウス対策に対する偽らざる工務店の声である。工務店にとって必要なシックハウス対策とは、ズバリ言って「リスクマネージメント」である。ここに来てシックハウス対策は、化学物質過敏症と同一視される動きが主流になり、少し頭が痛いだけで「もしかして私も?」という新しい「もしかして症候群」的な動きになりつつある。なぜ工務店にとって事前対策が難しいのだろうか。それは「施主は弁護士、法律・訴訟問題への対応への不安がある。化学物質過敏症のレベルまで行ったら、いくら予防対策をしても意味がなくなる」という潜在的な不安がある。さらに、工務店である馬野建設・坂根晴夫システム管理室長は「どんなに予防的な対策を施しても、結果がどう出るのか分からないことがが一番心配」ということだ。つまり予防原則の必要性が言われているにも関わらず、実際の現場では有効な対応策が示されていないということを意味している。
 
 住環境医学研究会の白瀬哲夫氏は話す。「子供がいる世帯、リフォームする高齢者が発生する確率が高い。つまりコストを下げようという世代は症例が出るターゲットとして捉えられる」。そのためには建材の素性を把握することから対策は始まるのだという。対策は必要だが、見えないものに対する策が具体的にない。であれば、まずは建材の素性をまずは把握しようということになった。住環境医学研究会と共同で行う「米子プロジェクト」が一歩前進した。

「床材の定点測定」「空気質測定」
「施工指導体制プログラム化」の実行が決定


 米子のミヨシ産業は「山陰で人にやさしい住まいを考える会」を主宰している地域建材商社である。その会ではCPM住宅など鳥取県住宅供給公社の物件を手掛けた実績がある。今回は、そうした実績に基づいて、CPM工程管理を使ったシックハウス対策に挑戦すねことになった。地域建材商流と地場工務店がシックハウス対策に実際に取り組んで見ようという動きである。その際、実際に住宅を建設してみて、「どこにこんな建材を使いました」というものではなく、あくまで施工工程管理と商物流、そして空気質測定という3つのポイントを抑えて、そのデータを蓄積して今後のノウハウのない工務店向けの「予防原則」の標準フォーマットして蓄積していこうという試みである。

 プロジェクトは今年1月から工務店・馬野建設(鳥取県東伯郡)とミヨシ産業(鳥取県米子市)が共にCPM住宅に取り組む中で、工程管理の中に独自のシックハウス対策を盛り込んでみようという発想からスタートしている。サポートとして住環境医学研究会の建材部会が協力し、共に地場に根ざした対策をして現場主義に立ってデータ収集をしていこうとしているものだ。


 米子での第3回会合は3月26日にミヨシ産業本社で行われた。その直前には「山陰で人にやさしい住まいを考える会」の勉強会も行われ、現在のシックハウス対策の要点が会員である工務店、専門工事業者など30名以上が参加した。地域建材商社が工務店に対し営業支援などの機能を果たす動きは各地で行われているが、ミヨシ産業の場合は、同社の販売促進部部長・川上卓也氏を中心に常に新しい情報を工務店に提供し、共に受注活動を行って行くという情報支援が活発だ。今回のシックハウス対策住宅プロジェクトもそうした工務店支援の延長からの発想によって行われている。


 第3回目会合では、住環境医学研究会建材部会の白瀬哲夫氏と工務店である馬野建設、ミヨシ産業が同じテーブルにつき、実際に地域建材流通業と工務店とがタッグを組んで何ができるのかを中心に問題点の整理と具体的実施項目が話し合われた。その結果、下記3項目を必須としたプロジェクトを組んでいくことが確認された。@空気の管理−空気質測定A建材の管理(建材の素性把握)−フローリングのカットサンプル材のチャンバー測定B施工の管理−CPM工程管理の活用と職人の施工管理


空気の管理

これは完工後・引渡し前に家具を置かない状態で室内の空気質測定を行うというものだ。その際に換気システムが適切に作動しているかもチェックする。行政による検査への対応のための数字あわせのような測定ではなくて、NPO法人シックハウスを考える会による客観的で厳しい測定を行い、引渡し前にデータ収集を行うのである。この段階でホルムアルデヒドやトルエン、キシレンなどが発生する場合は、その原因を探ることになる。建材は素性を把握して使用しているということになっているから指針値の予測値以上の数値は出ないのが理屈である。しかし仮にここで化学物質が異常に発生した場合には、原因特定が手探りにはならないというメリットがある。またMSDSの表示が虚偽だったというケースもこの空気質測定から判明するケースもありうるだろう。ゆえにメーカーにとっては正確なデータ提出が求められることもあり得るだろう。同時に、建材には問題がないということが分かった場合には、施工時に職人が設計図書通りの接着剤を使わなかった、などという施工上の問題点に原因があるケースも想定される。そうならないためにも、完工に至る施工管理の重視はこのプロジェクトでは最重要課題となる。

施工の管理

 建材の管理をいくら徹底していても、実際の現場で職人が施工を正しく行うかどうかが重要なポイントである。施工時の注意点は現在もっとも難しい課題である。例えばF☆☆☆☆接着剤は施工性が悪くなるということが最近よく言われるようになっている。また塗料についても、「以前に比べてツヤが悪くなった」という声もメーカーには届いている。現場の大工一人一人がシックハウス症候群についての知識を十分に備えていることは少ないから、現場監督の指示が特別に無い限りは施工性を確保するために慣れている接着剤や塗料を使ってしまうケースもある。そうした施工を指導する側である工務店にも、十分なシックハウス症候群に対する知識は十分では無いのが現状だ。「とにかく、工務店は勉強していない」と言われるケースである。

 CPM工程管理の中で、そうした指導教育体制をどこまで敷けるのか、ここが重要なポイントになる。川上氏は言う。「CPM工程管理でも職人を交えた現場監督会議などを何回も行うことは今までは無かった。だからこのプロジェクトでは、職人に対する打ち合わせの方法も改めて検討し、例えば『建材に嫌気をさすな』という指示も必要になってくる」。

つまり、施工性が悪くなったことを職人にも十分に理解してもらい、その必要性を説くことから対策は始まるのだ。とはいえ、馬野建設の坂根氏は「シックハウス対策におけるチェック機能を完全には任せられる現場監督は少ないです」とも言う。まずは工務店と職人との連携が必要になる。そのためには地域建材商社の情報支援が彼ら工務店には必要になってくる。そこで今回のプロジェクトでは、住環境医学研究会の協力の下、施工管理においては、各種専門工事職種(別表下職リスト)が気を付けるべきことをチェック項目を作成することになった。

建材の管理

 今回のプロジェクトのメインとして考えられてきたものが、この「建材の管理」というものであった。今までの流通にどんな問題点が潜んでいるのか、また搬送上、保管上、納材時の問題などを検証してみようという狙いである。物流上での建材の品質劣化があると想定した上で、出荷時、搬送時、保管時、納材時といった各ポイントを設けて定点観測によってまずは建材の化学物質放出数値の変化を把握して見るところから疑ってみようということになった。

 実はこの取り組みについては、様々なメーカー、商社から「実にマニアックだ」「そんなことやっても意味が無い」と散々言われた項目でもある。しかし、一部メーカーの中には協力的な所も出始めているし、また今回のミヨシ産業でも「最後は一般消費者への安全性アピールのためにはどんな細かい部分でも徹底的にやった方が良い」という意見も集まった。

 建材チェックの対象となるのは床・壁・天井材である。その中で、すでにこうした品質管理体制が敷かれている業界が壁紙業界である。これは本誌1月号を参照してもらいたいが、今回の対策住宅でクロスを使用する場合は、こうした対策を利用する方法もある。その他の接着剤や塗料、そして天井材についてはNPO法人シックハウスを考える会の「建材データベース」(35℃、50%で評価試験)を活用することが可能である。ゆえに、問題となるのはいずれの対策も施されていない「床材」が今回のプロジェクトで実際に定点測定をする建材となった。具体的には使用する建材のメーカーからMSDSを取り寄せる。そして対象となる床材を「建材倉庫への納入時」「保管時」「出荷時」の各3回にわたりロットから一部を抜き取ってチャンバー試験を行い建材の化学物質の変化を見た上で、MSDSとの比較検討を行うというものだ。


「シックハウスは身近なものではない」という問題

 以上、3項目の必須事項を挙げたが、実際上では住宅に使用される建材の素性を把握するということが予想以上に難しいようである。すべての建材を把握しようとすれば、建材メーカーの協力が必要になる。基本は、すべてのメーカーに製品の素性を教えてくれるMSDSの提出を求めることが必要になる。しかし、現実問題としてそこまで要求する工務店、あるいは建材商社などいないのが現実である。「そこまでやる必要はない」という声もあるし、またメーカー自身がどこまで対応してくれるか、自社に不利になるデータを出すことは常識的にはあり得ない。また長年の商慣習やメーカー・商社・工務店との信頼関係や力関係も地域によっては色々と事情があることも事実だ。しかし白瀬氏は強調する。「メーカーに対しVOCまで提出して下さいと言えるかどうか。そこまで施工者は情報を集めなければ施主には堂々に対策を主張できないだろう」。つまり、自分の使う建材について、正しい情報を持つことは施工者側の義務になるという考えである。これは一般的な商売であれば常識の範疇に入るもので、住宅業界だけが例外ということはあり得ない。中途半端な対策であれば「F☆☆☆☆だから大丈夫です」という営業トークの延長の主張と同様のものになってしまう恐れがあるのだ。

まとめ

 現状のシックハウス対策は、大きく2つに分かれる。それはすでに症状が起きてしまった後の対応と、まだ起きていない問題についてへの予防措置をどうするかということだ。

 今回の馬野建設とミヨシ産業の取り組みは、後者の予防措置を研究しようというものである。坂根氏は、「自分の築10年の家を測定したらホルムアルデヒドが結構出てきた」という。しかし自分の問題としてシックハウス症状は現れない。また自身の手掛けてきた物件でも、シックハウス症候群を訴える施主はまだいないということだ。そのため自分自身の実感としてどうしても数値と症状の関連性がつかめないのだという。「対策が必要なことは十分に分かっている。しかし工務店の立場としては、実感がないゆえに、今後どう対応したら良いか分からない」(坂根氏)。

このように予防措置における現状は、「どうしたらよいか」という方針・指針が工務店自身の実感として打ち立てられていないという状態である。そのため、住環境医学研究会では施工者にとって、商物流にとっての“予防方針”をまずはこの米子のプロジェクトにおいてデータベース化しようということになった。一般的な建材の商物流を経て建てられる住宅の“予防方針”を確立し、今後の類似ケースの対策における参考指針の貴重なデータとすることが目標となる。

 そのために乗り越えなければならない第一のステップが、「建材の素性の把握」である。建材店・工務店との協力によってメーカーを巻き込んでシックハウス対策のレベルを施主に提示するのである。どんなに自然素材を使い、どんなにゼロに近い化学物質含有量でもシックハウス症候群を訴える施主がいるのに対し、劣悪な空気環境の中に暮らしていても何ともない施主もいるのがシックハウス症候群問題の難しいところである。

 そのため施主のすべてを完璧に満足させる対策などありえない。ゆえに工務店にできることは、データを示し、施主の健康状態を把握することが最低限の対策となるのではないか。その結果、米子の会議によって得られた地域商物流・施工者対策の現在の指針は以下の通りである。

@ 建材の素性の把握

A 換気方法の的確な把握・換気経路の確認

B 室内空気質測定

C 施工管理の徹底

 なお、この対策プロジェクトが目指すもの、それは「シックハウス対策症候群」だけに止まらない。その対策過程で得られるさまざまな経験は、適正な施工体制を生み出し、工程管理の充実をもたらすに違いない。また建材の情報の透明性が図られると同時に、メーカーと商社、さらに工務店といった従来の流通機能が変容していく可能性も秘めていることを付け加えておきたい。建材メーカーや建材商社にとって視点の置き方ひとつでは、あまり公開したくないという部分もあるかもしれない。しかし今後様々な化学物質が規制されていき、地球環境問題への対応などが企業として求められる時代だ。

 今回のプロジェクトは、あくまで既存の商材・流通による試みである。言って見れば、現実的対応としてどこまで出来るのかを追求したプロジェクトである。その意味で、例えば測定対象建材を「床材」のみに絞ったという点を取って見ても、既存の建材商流にとってはまだ手緩い対策であることも確かだ。

 しかし、その一方では自然素材系の少量高品質対応の動きも見ておかねばならないであろう。住宅業界が今までの大手主導の大量供給体制のアンチとして、徹底的に、堂々と自社の建材を誇りある商材として情報公開していく胎動は、すでに始まっていることを忘れてはならない。その踏み絵が「建材メーカーは堂々とVOCのデータを出せるか」ということになってくるのではないだろうか。




※参考記事
建材の安全性能は確立できるか
その建材、追跡せよ―住宅建材流通にもトレーサビリティの波

(住宅ジャーナル2004年4月号「建材商社NOWBより)

 プロとして住宅建材を扱う際には、今後どんなリスクが待ち受けているか分からない。情報公開が問われる時代だ。そうした中、建材の安全性を示す基準をつくろうという動きが、今後本格的になるようだ。建材の性能の中に、「安全性能」をPRできれば、一般消費者にとっては住宅を建てる際のひとつの目安にもなる。 
 ただ、「何をもって安全とするか」の議論はまだ始まったばかりだ。トレーサビリティをめぐってはバーコードによる商品管理方法から、電子タグ利用を目指す動きも始まっている。建材を追跡するインフラ技術は整備されようとしているものの、導入する建材メーカー・建材流通業者の対応は各社各様だ。
 各社が持つ既存の管理システムに対し、新たなシスム導入をするとなると採算面や新規導入のメリットの検討などクリアすべき点が多い。また、トレーサビリティの大きな目的として、「建材の安全性」という問題と、「電子タグ」といった「ユビキタス」技術の導入とはリンクするものなのか。その解釈や定義を巡っても明確にする必要があり、なかなかひと筋縄ではいかないようだ。


いまだ「正確な情報」がない
 
「まさに"ミミズバーガー"のことですよ」
 建材の安全性について話をしている時に、ある建材メーカーの営業マンが冗談交じりに囁いた。「牛丼の肉は牛肉じゃなくて、本当はネズミの肉を使っている」「ハンバーガーは食用ミミズを使っている」といった誤った情報は、根強く噂として冗談のネタに使われることがよくある。

 建材もそれと同じで、「本当はホルマリンが残留している」「建材によって指針値をクリアしてないものがある」という情報から、「あの家の地盤はボロボロだ」「柱が一本抜けている」となどという情報まで、現在は色々な情報ネットワークを伝わってあることないことがごちゃ混ぜで伝わってしまう怖い時代である。

 それもこれも、原因は「正確で客観的な情報・判断基準がない」ということに起因している。建築基準法の改正でホルムアルデヒドの情報を提示するF☆☆☆☆制度はできた。しかし、それは結果表示であり、その建材がどこで作られ、誰が管理し、どこで品質検査をし、誰が施工し、最後にその品質を誰が証明するのか。
 建材の安全性を議論する前に、まず正確な情報がどれだけ現在我々は知ることができるのか、そこから確認をしていくことが必要であろう。


 住宅建材のトレーサビリティとは「施主と業者との共通言語による情報共有」 健康・安全性能をどう見るか

 住宅に使用する建材について、その安全性を確保するための第一歩として、その流通経路を確認し、さらに施工段階でのチェックを合わせて行おうとする流れが出てきている。その第一歩となる考え方が、「トレーサビリティ」という考え方である。
 トレーサビリティは何も新しい概念ではない。食品・化粧品・医薬品・医療用資材など人間の生命や人体の安全性、または厳重な品質保証が求められる産業や、身近なところでは病院のカルテや自動車のメンテナンス帳などが、まさしくトレーサビリティが行われている分野である。
 また本来の意味での「トレーサビリティ」を実現するには、極端な話紙一枚からでもできる。手書きで記録したものを、次工程へ次々と所在地と担当者サインを入れて行けば、簡単なトレーサビリティは可能である。
 しかし、これが多様な商品アイテムや複雑な流通経路を辿った商品になると、それなりのフォーマットによる厳正な管理システムが必要となる。現在、住宅産業界での情報開示やトレーサビリティの確立が求められている背景には、こうした簡単な「紙一枚」程度の管理も出来ていないのでは?という声があることも事実だ。

 例えばフローリング材を見た場合、一般消費者がその台板の原産地と工場、製造年月日を知ることはまず不可能である。どこで陸揚げされ、どこで荷卸しどこの倉庫に入り何日経過し、施工現場に到着したのは何月何日か、その間の性能証明書・出荷証明書は誰のサインが押されているのか・・・住宅建築業界はそんなことまで今まで考えてこなかった。

 建材流通においてはかつてJAS不適合品にJASの認証シールが貼られて出回り問題になったことがある。しかし、その行き先は十分に追跡ができずに終わっている。そして製品のバラツキの問題・・・こうした事例を取っても、建材の製造工程とともに流通過程の透明化と、その情報開示がある程度必要となっていることは言うまでもないことだろう。


 紛争トラブルの要因は、原因特定の難しさと使用建材の情報がないこと

 「住宅が人体にとって危険なものであるという認識はこれまでなかった。それがシックハウス症候群が発生したことによって、ようやく使用している建材に危険性があるのでは?という意識に変わってきたのがここ最近の住宅業界なのではないか」(「モイス」を製造する三菱商事建材の塩地氏)。つまりようやく住宅やそれを構成する建材自体に、食品と同様に人間の健康・生命安全性を担保する必要があるのではないか、という流れこそ、住宅建築業界におけるトレーサビリティを考える際のポイントであろう。

 「シックハウス症候群がここ最近止まることなく発生するのは、住宅の性能の瑕疵であると言えると同時に、施主と作り手との情報共有化ができない構造にあるからではないのか」と指摘する建築業者も出始めてきた。
 つまり、シックハウス症候群は建てた後の出来事であり、発症したその原因と対応を巡る紛争劇であることがポイントだ。一番施主が不信に思うのは、使用した建材の原因特定ができないという部分である。そして、その建材についての正確な説明を受けていないということも重要だ。だから、床を貼り変え、壁を貼り変え、それでも解決しない。改修する業者も原因特定が分からない。これがもし使用した各建材にトレーサビリティが付随していたのならば、施主と業者は共有の建材に対する情報を持つことになり、対処はもっとスムーズに行くはずである。そうしたチェック体制について誰もが無関心であった。つまり製造する側、売る側、使用する側もその建材について共通の認識がなかったのである。



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